実際に日頃レーシックの執刀をされている医師に直撃インタビュー。
私たちが本当に知りたい率直な話や、ネットではなかなか得られないデリケートな内容まで、
遠慮なく徹底的に伺ってきました。
『道玄坂 加藤眼科』は渋谷駅ハチ公口の目の前のビルにあるクリニックです。レーシック専門ではなく、眼科全般の一般診療や緑内障・ドライアイなどの専門外来窓口も開設しています。ちなみに手術や施術はすべて院長の加藤卓次先生が行っておられる個人クリニックです。
院長の加藤先生は温和で柔らかな物腰の方で、私たちにとって平易な言葉を選んでお話くださいました。
インタビューの中では「ひとりの医師としてのレーシックに対する考えや取組姿勢」「レーシックと適応性の問題」「これからレーシックを検討する方へのクリニック選びのアドバイス」などについてお話を伺っています。また、非常にデリケートな問題である「レーシック難民問題」についてもあえて言及していただきました。
いずれも参考になる興味深い内容ばかりです。予定をはるかに超えるロングインタビューとなってしまいましたが、ぜひ、最後までおつきあいください。
レーシックの現在
レーシックを取り巻く環境について語る加藤先生。 ひとりの医師としての客観的な意見を伺いました。
-加藤先生は、現在のレーシックを取り巻く
状況についてどのようにお感じですか?
そうですね……レーシックをご検討される皆さんは主にインターネットで情報を得ておられると思うのですが、ネットの情報は過剰な宣伝や間違った医学知識、むやみに不安を煽る話など、客観的なバランスが欠けているように思います。
一般の方には『何が本当で、何が嘘なのか』が非常にわかりにくくなっているのではないでしょうか。
取材をさせていただいた、落ち着いたトーンの休憩室
「レーシックは飛行機、コンタクトレンズは自動車」
加藤眼科のエントランス
柔らかな光で落ち着きを感じられる空間。
-実際のところ、
レーシックの安全性はどうなのでしょうか?
眼科医にとってレーシック手術は決して難易度の高いものではありません。感染症についても、これはレーシックだけの問題ではなく、コンタクトレンズにも感染症の心配はあります。
コンタクトレンズを装着している時間あたりの感染症にかかる確率は、実はレーシックよりも高いのです。たとえば飛行機という乗り物は『墜落したらどうしよう』という不安がありますが、実は乗っている時間あたりの死亡率で比較すれば自動車などより圧倒的に安全だという統計データがあります。
レーシックもこの飛行機と同じで、事故が起きた際には非常に大きく報道されるために『怖い』という印象が先立っているように思います。これもレーシックにまつわる誤解の原因となっているのではないでしょうか。
適応の見極めにドクターの経験と実力が問われる
適応検査の様子
患者の角膜の状態を精査する重要な作業。
-レーシックの適応性の判断について
伺いたいのですが。
利益目的でどんどん患者さんにレーシックを勧めたいクリニックでは、適応性がかなりグレーゾーンの人でも受け入れてしまうことがあるようです。私の場合は非常にレーシックの適用基準を厳しく判定しており、『難しいな』と思えばレーシック以外の矯正方法を提案します。
そうでなくては医師としての責任が果たせないと思うからです。
最近よく耳にするレーシック難民についても「この人はレーシックを受けるべきではないな」と適応の段階で判断できたのではないかと思われる人が多く、医師がしっかりとした適応判断さえ行っていれば、現在のレーシックの技術上の問題で深刻な後遺症が発生する例はほとんどないと思いますよ
レーシック難民問題の本質
「デリケートな問題もごまかさず、
患者の立場や気持ちを理解して解決にあたることが大切。」
-今お話の出たレーシック難民問題について
もう少し掘り下げてお話ください。
これはひとつの例としてお話しますが、『円錐角膜』という、角膜の中心が前に突き出してくる疾患があるのですね。人によって程度や進行の状況も異なるのですが、私の場合だったら軽度の円錐角膜傾向のある方がレーシックを希望されても『今後円錐角膜が進行すると将来的に見えづらくなる可能性があるからやめましょう』というでしょう。しかし患者さんにレーシックを勧めることが前提のクリニックでは、こうしたブレーキがかかりにくいかも知れません。
円錐角膜に限らず、何らかのマイナス要素があることがわかっている患者さんに対してもレーシックを行ってしまうクリニックの存在が、結果的にレーシック難民を発生させる原因の一端となっているのではないでしょうか。
また、患者さんのメンタル面のお話をすると、自分のおかれている現状そのものに強い不満があり、その原因が眼のせいだと考えていらっしゃる方にはレーシックはお勧めできません。たとえば『自分が異性にモテないのは眼鏡をかけているせいだ』『仕事がうまくいかないのは眼が悪いせいだ』と思い込んでいらっしゃるようなタイプです。
よそのクリニックでレーシックを受けて当院にセカンドオピニオンを求めて来られる方もおられますが、そういう方を検査して『眼に問題はありませんから気持ちを切り替えて新しい生活に取り組まれては?』と言っても、完全に思い込みの世界に入ってしまうとそうしたアドバイスも耳に入らないようです。
ネットの世界ではそういう方が感情的な書き込みをあちこちで繰り返しますので、実際の被害以上にネット難民問題が煽られているような気がします。いずれにせよ後遺症で苦しんでいらっしゃる方は、一刻も早く専門医のもとで抜本的な治療をお受けになっていただきたいと思います。
レーシックに適した人とは?
-では、加藤先生がお考えになる「レーシックに適した人」とは
どのような方でしょうか。
まず、満足度という点で一番レーシックに適している方は比較的年齢が若くて軽~中度の近視の方でしょう。強度近視の方はグレアやハロ、あるいは近視の戻りが心配になります。そうしたことは最初の段階でちゃんと患者さんにご説明しておきます。
それから、左右の視力差が大き過ぎて眼鏡がかけられない方や体質的にコンタクトレンズが合わない方、ドライアイの方なども他の矯正方法よりはレーシックが適している可能性が高いと言えるでしょう。
早く専門医のもとで抜本的な治療をお受けになっていただきたいと思います。
大手クリニックと個人クリニック
加藤眼科の院内風景
大手クリニックに負けない最新設備も充実。
-大手クリニックと個人クリニックでは
レーシックに違いがあるのでしょうか?
大手クリニックは医師の数が多いため、手術を担当した医師がアフターフォローに携わらないというケースがあるようです。うちのような個人クリニックの場合は手術も術後のフォローも私自身が行うので、患者さんの『眼の見え方』についての責任はすべて私が一生負わなくてはなりません。そのあたりの医師の責任の在り方については違いがあるかも知れませんね。
設備面については、個人クリニックも最新の設備を導入しているところもありますから、いちがいに大手クリニックだけが優れているとは限りません。
当院にいらっしゃる患者さんはかなりレーシックについて深く勉強された上で個人クリニックを選択なさった方が大半で、私を名指しで『先生に執刀して欲しい』とおっしゃる方や、他の患者さんのご紹介でお見えになる方も多く、非常に身の引き締まる思いがします。
ケラトームレーシックとイントラレーシックについて
「デリケートな問題もごまかさず、
患者の立場や気持ちを理解して解決にあたることが大切。」
-加藤先生が行われているレーシックは
どのようなものですか?
当院ではケラトームレーシックを行っています。イントラレーシックも非常に新しくて優れた技術ですが、手術中にレーザー機器を替えたり、患者さんに場所を移動していただいたりという点で心配な面もあります。
ケラトームは熟練した医師でないと手術が行えませんが、イントラレーシックは手術のほとんどをコンピューターが管理しますから、医師にそれほどの技術は要求されません。
しかし医師がレーシックに習熟していれば、ケラトームの方が指先の感覚を活かして繊細な手術が行えるというメリットがあります。
イントラレーシックでは非常に薄いフラップがつくれるので、角膜が薄い方や弱い方でもレーシックを受けられるという特徴があります。ただし私は、先程も申し上げたように、もともとレーシックに対して適応性の低い方でもレーシックが受けられるということがいちがいに『患者さんにとってのメリット』とは考えておりません。
ちなみに当院はレーシック専門ではなく、眼科全般の治療を行っている関係上あまり多くのレーシック手術の予約を抱え込むということはしないようにしています。ひとつひとつの手術に集中したいからです。
これからレーシックを検討される方へ
「レーシックを勧めるのではなく、最適な矯正方法を勧めるのが医師の役割。」
-これからレーシックを検討される方への
アドバイスをお願いいたします。
まず、さまざまな矯正方法の中から、何があなたにとってベストな選択なのかを親身に考えてくれる医師を選ぶことだと思います。
たとえば『あなたの症状であれば、眼鏡のほうが良いのでは?』といったアドバイスをしてくれるような医師です。もちろんその選択肢の中からレーシックを選んで勧められるということであれば問題はありません。それから、大きなクリニックの場合は『執刀医は誰なのか』を事前にしっかり確かめて、その医師のプロフィール、眼科の専門医かどうか、眼の専門家としてきちんと体系的な経験を積んできている方なのかどうかを確認してください。
眼科医は視力だけではなく、眼と神経と脳の関係についても知っておかなくてはならないし、一生変化し続ける人間の眼について、年齢によって発症しやすい疾病や症状があること、年齢とともに見え方も変わってゆくことなどを考慮した上でレーシックの適応性について判断ができなくてはいけません。
眼科医は視力だけではなく、眼と神経と脳の関係についても知っておかなくてはならないし、一生変化し続ける人間の眼について、年齢によって発症しやすい疾病や症状があること、年齢とともに見え方も変わってゆくことなどを考慮した上でレーシックの適応性について判断ができなくてはいけません。
眼科専門医というのは医師の中でも小児眼科や斜視、白内障手術などあらゆる眼科分野の知識と経験を積んだ人です。レーシックは原則として一生に一回しか受けない手術ですし、眼は一生使う大切な器官ですから、後々のことまでトータルで任せられる眼科専門医を選ぶようにすれば、レーシックで後悔は残らないと思います。
編集後記
取材を終えて
「相手が知りたいことは何か」を察知して、相手の目線の高さでもっともわかりやすい説明方法を選んでくださる加藤先生。「ハーバード帰り」という経歴を拝見して恐る恐る取材に臨んだ私たちでしたが、取材スタッフ一同、「信用できるお医者さんとはこういう先生のことではないのか」という感銘を受けて取材を終了しました。スタッフのうちあるひとりは「私がレーシックを受ける時は加藤先生にお願いする」と真顔でつぶやいていました。
加藤先生、どうもありがとうございました。